映画とその原作

小説でも詩でもルポでも戯曲でもいいけど原作がある映画とその原作について無駄口をたたく

『黒い雨』井伏鱒二作

まだ読んでいる途中だが、おそろしく密度が濃い作品だ。ほんの数ページの中に原爆が落ちた広島の犠牲者たちの模様がつぎつぎに描かれていく。

これを映画化したのは今村昌平だったが、いまさらながら今村のバイタリティの強さに驚くばかりだ。

今村昌平の最高傑作は初期の『果しなき欲望』だと個人的に決めてかかっているが、日本の土着な人たちのエロスと生きる執念を描いた鬼才が原爆文学(というより戦後日本文学の最高峰のひとつだろう)の傑作をなにもって映像化しようとしたのか、気になるところだ。

公開時に映画館で見なかったことが悔やまれもする。

「矢須子が『おじさん』と叫んで、何かにつまづいて前のめりになった。煙が散るのを待って見ると、その障害物は死んだ赤ん坊を抱きしめた死体であった。僕は先頭に立って、黒いものには細心の注意を払いながら進んだ。それでも何回か死人につまずいたり、熱いアスファルトに手をついたりした。一度、半焼死体に僕の靴が引っかかって、足の骨や腰骨などが三尺四方にも4尺四方にも散ったとき、僕は不覚にも「きゃあッ」と悲鳴をあげた。立ちすくんでしまった。」p100新潮文庫

東日本大震災を題材とした文学もこういう人間の真実が描かれるべきだと私は感じるのだ。

 

 

今村昌平

http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=247149&ct=