007/カジノ・ロワイヤル(2006)
原作の発表が1953年だから、50年以上を隔てての(二度めの)映画化だ。
舞台も現在に置換えられて原作が書かれた頃にはなかった小道具が頻出する。
携帯電話とPCとかインターネットだ。
ボンドの愛車アストン・マーティンも最新式で登場するが、ヴェスパー救出のために
向かった先であっけなく大破してしまう。それからル・シッフルに捉えられて急所への
拷問になるプロットはそのままだ。
ル・シッフルの身分とか立場が変えられて国際テロ組織の資金運用で儲けている男
になっているが、今回はヘマをやって賭博でそれをとりもどそうとモンテネグロのカジ
ノ・ロワイヤルに現れる。
んだ上で、同社が製造した超大型旅客機をお披露目式で爆破して、巨額の利益を得
ようとしていた。」(Wikipedia)
それを阻止しようと英国財務省から資金援助されてボンドが乗り込むのだ。
「ソ連工作員であり、フランスの共産党系労組の会計主任であるル・シッフルは、おろ
かな男で、売春宿を経営するために組合の資金五千フランほど使いこんでいる。だが、
そのときも英国秘密情報部筋から悪人としてにらまれていない。」(『オクトパシー』解説
より)というのが、原作のル・シッフル。
映画では、「世界各国のテロ組織から預かった資金をマネーロンダリングしつつ運用し
ており、旅客機製造会社の株のカラ売りを仕込
映画ではル・シッフルが不正な株の運用するのを阻止するのもボンドとなっている。
マイアミ交際空港で初飛行する大型旅客機爆破をル・シッフルが計画し、旅客機製造
会社の株暴落を見込んでカラ売りしていたのだ。それがダメになって資金が焦げ付き、
おまけにテロ組織からも狙われるはめになる。
ちなみにだけど大型旅客機爆破計画をボンドが勘付いたのには、武器の売人のディ
ミトリオスおよびその妻ソランジュと接触できたためだし、その妻とは一夜の情事を過ごすことができた。この時までボンドはシーザーみたいな人妻好みで、ヴェスパー・リンドとの出会いはその趣味を変えさせるものとなる。こんなのも映画の脚色部分だ。
原作ではカジノ・ロワイヤルに滞在するボンドが爆破テロに狙われたり、ル・シッフル
の用心棒に仕込み銃で殺されそうになるエピソードがある。映画は、勝負中にボンド
が何者かに毒を盛られて危うく一命を取り留めるエピソードに置き換えられた。
服毒による暗殺からボンドを救うのがヴェスパー・リンド。アストン・マーティンにQが
仕込んが解毒装置をつかったところがケーブルが一本はずれていてショックが与え
られずボンドが気を失ったところにかけつけてケーブルを差し込んでボタンを押すと
めでたく覚醒となる。
演じるのは、エヴァ・グリーン。ちょっとアン・ハサウェイにも似てるけどもっと憂い顔
で品が良い。
リンドと結ばれて英国諜報部を辞めて結婚を考えるところも原作にある。
ただ原作のリンドはもっと身持ちが硬くて、ロシアにある恋人に操をささげつつこっち
が服毒死するのだ。
ボンドへは置き手紙で真相を告げて死んでいく。
そこいくとエヴァ・グリーンの死はかなり派手だ。有名なヴェニスのビル沈没シーン。
これはムーグ社がロンドン近郊のパインウッドスタジオに巨大水槽を設けて撮影した
ものだ。
最後まで裏切り女リンドを助けようとするボンドの前で、リンドは水中で美しい死を遂
げる。『狩人の夜』(1955)のような溺死美女だが、死ぬまでのプロセスまで見せる。
原作と違うといえばここには、007シリーズでその後宿命の敵ともいうべき犯罪組織
スメルシュが不在だ。ダニエル・クレイグの新シリーズが決心したことは、この古くか
らの敵と決別することだといっていい。