映画とその原作

小説でも詩でもルポでも戯曲でもいいけど原作がある映画とその原作について無駄口をたたく

『007/黄金銃を持つ男』(1974)

自動車に翼つけて飛べるのか。
飛べるのだ。
こんなSFショーは無論、原作にはない。
スカラマンガという悪党とボンドとの対決というプロットだけ原作からいただいて、オリジナルのストーリーに仕上げたろくなもんじゃない。
ダニエル・クレイグの『007/カジノ・ロワイヤル』がいかに原点回帰であったかここからもよく分かる。
タイトルに「イアン・フレミング黄金銃を持つ男」と出てくるのはご愛嬌というものだ。
そのオリジナルの内容が、スカラマンガではなくすっかりマンガなのだ。
空飛ぶ飛行機しかり、360度回転するカーチェイスしかり、太陽光線集めるビーム砲しかりだ。
360度カーチェイスはきれいに出来過ぎて逆にマンガみたいなのだ。もっと危なかっしくしないと。
舞台をカリブから東洋(香港やタイ)に移した
スカラマンガが住むのはプーケット島。

太陽エネルギーを使って自給自足する悠々自適の殺人者とは、いまならもてはやされるのじゃないだろうか。
レックス・アジテーターがあれば今日のエネルギー問題は解決だ。
それを開発したギブソンをスカラマンガは殺し、さらにギブソンのスポンサーであるハイ・ファットもなきものとして独り占めしてしまう。

ハイ・ファットに捕らえられたボンドはナイトクラブで取的ふたりを相手にする。
相撲取りが用心棒とは、日本侮辱もいいところだ。
けれど人形のふりしていたのが、実は生身で襲ってくるというのは、スカラマンガ退治のラストの一コマの重要な伏線になっている。
襲いかかる取的を撃退するのに尻をひっかいたぐらいじゃ無理だと思う。
その後の空手試合も相当な茶番だ。
日本流とチャイナイメージが混ざりすぎて、へんてこな東洋になってしまっているんだ。
小説だとボンドは死んだことになっている。

子供の時に007といえば、ロジャー・ムーアだった。しかし映画館で見たのは『007/黄金銃を持つ男』のみ。クリストファー・リーがスカラマンガだった。その原作がイアン・フレミングの遺作であったとは知らなかった。映画の内容はよく覚えてない。柔道するシーンがあったので、原作とはだいぶ違うのだろう。1年間にロシアで死んだと思われていたボンドが現れ、こともあろうにMを暗殺しようとする。催眠術で操られているのだ。それから仕事復帰で与えられたのが、カリブの殺し屋スカラマンガの暗殺だった。
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柔道ジャナク空手ダッタネ。

映画半ばでボンドガール、モード・アダムスがスカラマンガに殺されて退場するのも残念だし、全体的に演出が弛緩している。
カーチェイスはなんか懐かしい。
でも『狼の挽歌』もこんな感じだった。
次回作の予告がある
THE SPY WHO LOVED ME
64年のドン・ペルニヨンを盆にのせてニック・ナックが運んてくる。スカラマンガの住む家賃なしの豪華な島の浜辺で。
ニック・ナックは侏儒の執事。なにかと目障りな男である。
そこに泳ぐはグッドナイト。
原作でもグッドナイトはボンドの女友達にして同僚として出てくる。
活躍して、ボンドを助けるのだが、空飛ぶ車のトランクに入れられることはない。
香港の富豪ハイ・ファットを殺したスカラマンガがその財産を受け継いで島に大掛かりな太陽光システムを建設するのだ。
そこに使われているソレックス・アジテーターを奪取するのが、ボンドの第一のミッション。
スカラマンガ暗殺はついでというわけだ。

スタンレー・ジョーンズ、フェリックス・レイターというFBIが小説のボンドの味方。
スカラマンガはマフィアの会議を自宅で開く。そのメンツはソ連保安部の頭株ヘンドリックス氏はじめ、ロトコック氏、ビニオン氏、ガーフィンケル氏、パラダイス氏。
もちろん映画版には登場しないし、麻薬絡みの黒幕連中が儲けを企むこんな集まりも出てこない。ボンドが名前を変えてスカラマンガに雇われるという小説のプロットは全て無視だ。
星の王子さま』で象を飲み込んだボアが傷ついて逃げまわるスカラマンガに食われるというエピソードももちろんあり得ない。
スカラマンガは自宅に仕込んだボンド殺しの訓練部屋で、人形のふりしたボンドに撃たれるのだ。
なんのことはない。スカラマンガは自分の仕掛けた罠に自分ではまって自滅するのだ。
そのお膳立てをしたのは、影部屋でふたりの動静を観察してからくり部屋の仕込みを操るニック・ナックだった。
最後にこのチビ助はヨットのマストに括りつけられるのだった。