映画とその原作

小説でも詩でもルポでも戯曲でもいいけど原作がある映画とその原作について無駄口をたたく

『メッセージ』(2016)

 

 

原作『あなたの人生の物語』のあなたは主人公ルイーズ・バンクスの娘のことだ。これは娘が誕生するまでの物語だ。ルイーズは、娘に「あなたの人生」を語っていく。時間をさかのぼる形で。それと並行して宇宙人の言語解読のドラマがつづられる。ウェーバー大佐からの依頼で未知の生物の言語を調べるのは、ルイーズと原子物理学者のゲーリーだ。ゲーリーがある時、ルイーズを自分の部屋での食事を誘う。自分のたったひとつの得意料理を披露するという口実だ。映画のジェレミーにあたるこの男が娘の父親である。ふたりはしかし、いずれ別居し、ルイーズと娘は母子家庭となる。

日本語タイトルは『メッセージ』だが、原題はARRIVAL。つまり「到着」または「訪れ」か。
これは未知の宇宙人の地球訪問と娘の誕生のダブルミーニングだ。

『あなたの人生の物語』には、いかにもSF的なキーワードがふたつある。宇宙人類の名称であるヘプタポッドとヘプタボットとの通信を可能とするルッキンググラスだ。これは日本語だと「姿見」になるが、エイリアンの装置だ。エイリアンとはこの姿見を通してコミュニケーションが行われる。実物の宇宙人との接触は、どうも原作においてはない。


だから映画にはルッキンググラスは登場しない。
映画で大型の未知の物体が地球上の12箇所に飛来して、空中に静止しており、その中に7本足のイカ型宇宙人がいる。ところが原作で地球に届けられたのは「姿見」だ。宇宙人事態は飛来していない。この点、映画はウェルズ『宇宙戦争』(あるいはジョージ・パルとかスピルバーグが映像化した『宇宙戦争』)の火星人を踏まえている。

そしてイカ型だけに墨を吹き、それをリング状の形にしてそれが言語なのだ。

原作ではヘプタポッドの言語はある程度、解読がすすんでいるのだと思われる。
p235「ヘプタポッドの惑星には二個の月があり、片方がもう一方より著しく大きいということ。惑星の大気を構成する三大要素は、窒素とアルゴンと酸素である。惑星表面の二十八分の十五は水でおおわれている。」
くらいのことがその言葉から分かっている。

原作のヘプタポッドはラズベリーとフラッパーというあだ名をつけられているが、映画はよりコンビ感を出すためにアボットとコステロと呼ばれる。米軍の若手が暴走して宇宙人たちを攻撃したためにコステロは「死の領域」にあると、ルイーズはアボットとの会話で理解する。それだけヘプタボット言語をかなりのところ習得できているのだ。そればかりでなくアボットはルイーズを仲間だとでも思い始めているのだろう。宇宙船に危機がせまったときには、ルイーズの体をはじきとばして助けてくれるのだ。

ルイーズが自分の娘に対して成人するまでの生い立ちを語ってきかせるのだが、小説は正確に時間を順番通りに遡る。娘の年齢が次第に若くなって誕生するところがラストである。

これに対して映画は、最初に娘の誕生を見せる。

我々観客は思わず『二〇〇一年宇宙の旅』のラストを連想するであろう。もしかしたらキューブリックの傑作SF映画の続編がこれなのでは、という錯覚を誘引させる。


娘とルイーズのエピソードは小説のように時間を正確に遡らず任意に画面を見せていく。宇宙人とルイーズの関係に進展が起きたときのタイミングで、関連するシーンが回想ないしは予言される。
このドラマは時間の扱い方が普通ではない。このドラマ(映画も小説も)の大きなテーマが時間だからだ。つまり非常にSFっぽいのだ。これほどにSFとして語るにふさわしいドラマはない。

 

 

山田風太郎柳生十兵衛死す』より
「いえ、この世は過去と未来はべつべつでござりましょうが、能では、それは同時に存在する世界なのでござります」
「能は過去を呼び出すと同時に、未来へ翔ぶ芸なのでござります」