『ミッドナイト・ミート・トレイン』<未>(2008)
原作: クライヴ・バーカー
監督: 北村龍平
原作の翻訳が集英社文庫で出たのが1987/1だからせめて20世紀のうちに映画化していたら日本での劇場公開もあたかもしれない。
北村にしたら抑え気味の演出ながらみせるべきところは見せる正統スプラッタホラーの凡作に仕上がった。。
原作が短編なので長編映画にするために要素をかなり付加して、事件の目撃者を新鋭カメラマンに設定している。
これはいわゆる継承ものホラーに属する。『サスペリア』『へレディタリー』の系列に属する映画だ。
ニューヨークの裏側をショットで切り取ることをテーマとするカメラマンのレオンは、地下鉄の入り口のところで人気モデル(ブルック・シールズ)が暴漢たちに襲われているところを写真に撮ることに成功する。
ついでにレオン(ブラッドリー・クーパー)は暴漢たちに監視カメラの存在を示唆することで暴行を止め、モデルの女性を救い出すことができた。
ところが翌日の新聞に、このモデルが行方不明になったと掲載されるのだ。
不審に感じたレオンは翌深夜、地下鉄に乗り、そこで凄惨な殺人現場に遭遇するのだ。
殺人者は肉屋が使うハンマーで乗客を次々殴り倒して衣服を剥ぎ取って、牛の枝肉みたいにつり革のポールに鉤爪に逆さ吊りしていくのだ。その作業は手際よく職人技である。
この死体は、ニューヨークの街の地下に棲む始祖たちの餌となることが原作では説明されるけれど、映画では詳しい説明は省かれる。ただ、不気味な死体喰いモンスターがちらりと出てくるだけだ。
この始祖に食料を届ける屠殺人は一見、ビジネスマン風だ。ブリーフケースを持ち、そこから肉ハンマーを取り出す。
後頭部をぶんなぐると勢いで目玉が飛び出すほどだ。
死体処理のためにも目玉をくり抜く描写があり、まさに目玉づくし。
屠殺人はホテルに住み、時折、鏡を観ながら胸にできた腫瘍をナイフで毟り取って瓶にいれて保管している。こんな描写は原作にはない。それから食肉工場で働く男の姿も原作にはない。
この男は100年以上も前から始祖のための殺戮を繰り返していた。だいぶ消耗していて体がもたなくなりつつある様子を見せる。
原作にはマホガニーとカウフマンというふたりの男が登場する。
アトランタからニューヨークに出てきて20年も経つ小男のカウフマンの職業は定かではなく恋人もいない。彼が地下鉄でマホガニーの殺戮現場に遭遇するのだ。
「よく見ると、そんなに恐ろしい男でもないようだった。禿げかけた五十がらみの男。どこにでもいるような肥満体の中年男だ。物憂げな表情、落ちくぼんだ目。口は小さく、繊細そうな唇をしている。」(宮脇孝雄訳)
映画の殺人鬼は、唇以外は原作のイメージとは違っている。
原作の殺戮シーンは事細かに念入りに(つまりグロテスクを追求して)描かれる。食用動物を屠殺して加工する手順を人体に当てはめて作業が行われる。剃毛とか血抜きとかの手順を怠らず食用(?)として整えるという悪趣味を貫くのだが、映画の描写は必ずしもそうではない。
屠殺男が奪ったレオンのカメラを取り返すべくホテルの部屋に侵入するのが恋人と友人なのだが、見つかって恋人は命からがら逃れるも友人は捕らえられてしまう。そして地下鉄のポールに他の死体と一緒に逆さ吊りされる。その時、頭髪はそのままだし第一生きたままだ。レオンが殺人鬼と格闘する時に大鉈で切り裂かれ血まみれで息絶えるが、別に人質という風でもなく生きたまま吊り下げるとはルール違反というものだ。
ここで思い出すのが『ホステル2』のバートリ・エルジェべト風の拷問で殺される女子大生だ。手足縛られ、やはり逆さ吊りに天井からぶら下げられる。その下の浴槽に全裸になって横たわるのが、この娘をオークションで競り落とした女主人。鎌を使って娘の体を切り裂き、滴り落ちる血を体に受けて恍惚となる。