映画とその原作

小説でも詩でもルポでも戯曲でもいいけど原作がある映画とその原作について無駄口をたたく

『剣』 1964 日本 モノクロ 95分

道場での練習風景の激しさ。剣道の練習風景ばかりで試合シーンはわずかだ。全国大会優勝を目指しての練習だが、大会に至る前に映画は終わってしまう。多数の剣道部員が一斉に振り下ろす竹刀。奥行きのある幅の広い画面に同じ動きを繰り返す部員たちを背景に…

『少女は卒業しない』 2022

日本 カラー 120分初公開日: 2023/02/23監督:中川駿 原作:朝井リョウ 出演:河合優実 小野莉奈 小宮山莉渚 中井友望 卒業式の一日前、それから卒業式当日に舞台をしぼったドラマなのだが、河合のパートで、回想がある。一見、回想とは見せない(見えない…

ヴィム・ヴェンダースの『緋文字』 1972

原作ではパールの瑞々しさがまぶしいばかりに描写されているが、ヴェンダースのパールも負けず劣らずに可憐だし、わがままぶりが愛おしいくらいだ。ヘスターのゼンタ・ベルガーも美しい。ヴェンダースこんなに人間を美しく描ける作家だったかと見直す思いだ…

『セブン・イヤーズ・イン・チベット』 1997 SEVEN YEARS IN TIBET

原作は紛れもない傑作ノンフィクションだが、記録文学だけにそのまま劇映画にするわけにはいかなかった。アノー は主人公のハラーにブラッド・ピットが演じるにふさわしい人間味を加えて脚色している。事実かどうか不明だが、ハラーには妊娠している妻があっ…

『雨あがる』 1999

最初は『羅生門』。大雨の情景。それから『どん底』。貧民たちの酒肴と踊り騒ぎ。『椿三十郎』のような、城下の若侍たちの群れとの交流あり、『影武者』でのように殿様は動き回る馬上から話しかける。三船史郎は馬の上でのセリフはまあまあなのだが、降りる…

『最後の標的』1982 劇場未公開

原作が、ジャン=パトリック・マンシェットの『眠りなき狙撃者』。 アラン・ドロンがマンシェットを自分の都合いいように脚色して映画化。だからラストはハッピーエンドになる。 とはいえピエール・モレル監督『ザ・ガンマン』(2015)みたいにまるで別物であ…

『アジャストメント』2011について

THE ADJUSTMENT BUREAUアメリカ Color 106分 原作は短編でそれもストーリーに(ディックらしい)飛躍や省略も見受けられて自分的には未消化なまま読んでしまった感もある。映画はこういう欠落(?)を埋めつつも大きく翻案しているのがポイント。だから、原…

『にごりえ』1953

樋口一葉の小説がこれほどまでにドラマチックであるとは思わなかった。原作を読み、映像を観て、さらに文章を振り返ってそのことがまざまざと感じられるのだ。貧しくも可憐な明るい久我美子が犯す罪がどのように浄化されるのかこれは今見ても心臓バクバクも…

『三十九夜』(1935)と『三十九階段』

THE 39 STEPS 上映時間 88分 製作国 イギリス 初公開年月 1936/03/ リバイバル →ヘラルド-96.5 監督: アルフレッド・ヒッチコック 原作: ジョン・バカン 脚本: チャールズ・ベネット アルマ・レヴィル イアン・ヘイ 撮影: バーナード・ノールズ 音楽: …

『殿、利息でござる!』(2016)と「穀田屋十三郎」

原作の磯田さんに宮城県の片田舎に埋もれた歴史を掘り起こして欲しいと依頼があり、この原作を書き始めたようだ。おかげで、映画は宮城出身のスター(?)総動員だ。岩田華怜、千葉雄大、羽生結弦、本間秋彦…(これだけ)。本当なら竹内結子ではなくて、鈴木…

『マリー・アントワネット』(2006)

「ガーリーテイスト全開」とか「ポップでおしゃれ」などという賛辞に飾られた批評が目立ったソフィア・コッポラの新しいマリー・アントワネット像だが、今となると惨事、というくらいに忘れ去られてレンタル屋で探すのに苦労するほどだ。 兵どもが夢の跡。 …

『フィッシュストーリー』(2009)

伊坂作品はどんどん映画化されるが、いまだにこれといったものがない。韓国版の『ゴールデンスランバー』(2018)に期待するか。 原作をどう生かすか、どう理解しているかのバロメーターが映画オリジナルのストーリーやら演出となって表れる。(のだろうか?)…

『ミッドナイト・ミート・トレイン』<未>(2008)

原作: クライヴ・バーカー 監督: 北村龍平 原作の翻訳が集英社文庫で出たのが1987/1だからせめて20世紀のうちに映画化していたら日本での劇場公開もあたかもしれない。 北村にしたら抑え気味の演出ながらみせるべきところは見せる正統スプラッタホラーの凡…

真田風雲録(1963)

監督:加藤泰 原作:福田善之 脚本に原作者福田善之も加わっているけど、かならずしも原作通りの筋書きで映画化はされていない。主演が中村錦之助だけに、佐助=主人公で活躍する場を多く設けている。原作戯曲がそもそもそうだが、『信長協奏曲』や『真田丸…

『パンク侍、斬られて候』(2018)

『爆裂都市 BURST CITY』で町田康をosiのキチガイ弟(兄は戸井十月)として役者デビューさせたのが石井聰亙だった。その後の芥川賞受賞と華々しく作家としての地位を着実に固めていった先に書かれた『パンク侍』、満を持しての映画化はやっぱり因縁の石井聰…

『白ゆき姫殺人事件』(2014)

井上真央は全速力で何処へ。タイトルがゴダールみたいだ。それだけでこの映画を好きになってもいいくらいだ。 三木典子が菜々緒であるところは、納得できる。しかもハマり過ぎて意外性無く、むしろミスキャストだった。狩野里沙子の蓮佛が相変わらずの気持ち…

『関ヶ原』(2017)

さすが原田監督も映画少年のはしくれ、秀吉の死のシーンが『市民ケーン』だった。布団の中で息を引き取った滝藤秀吉の手から手毬が転がり落ち、それを岡田三成が拾い上げる。そこからすべてのドラマははじまる。「ローズバッド」『市民ケーン』と比べるとい…

『襲い狂う呪い』<未>(1965)

DIE, MONSTER, DIEMONSTER OF TERROR悪霊の棲む館(TV)上映時間 80分製作国 イギリス公開情報 劇場未公開・ビデオ発売監督: ダニエル・ホラー 原作: H・P・ラヴクラフト 出演: ニック・アダムス 、ボリス・カーロフ 「異次元からの色彩」または「宇…

『山椒大夫』(1954)

はじめて溝口の『山椒大夫』を見た。これは森鴎外の描いた説話文学の原作によく似ている。が、内実は全く違う変貌を見せた。原作をゆがめているわけではない。原作の持っている親子愛、別れと再会のドラマの骨格は完全に残している。だが、原作が潜在的に持…

『メッセージ』(2016)

原作『あなたの人生の物語』のあなたは主人公ルイーズ・バンクスの娘のことだ。これは娘が誕生するまでの物語だ。ルイーズは、娘に「あなたの人生」を語っていく。時間をさかのぼる形で。それと並行して宇宙人の言語解読のドラマがつづられる。ウェーバー大…

『美しい星』(2016)

原作をいままで読まないでいたが、映画化したのを機会に一読した。読み終えた日に早速、映画館に足を運んで観た。 仙台の映画館だったけど、仙台が舞台のシーンは無し。大年寺山から泉ヶ岳方向を眺めてUFO探す場面見たかったけど残念。入会権(今時知らない…

『少女』(2016)

こんなにも重くて深刻な暗いドラマだとは思わなかった。 本田翼を使ってこんなに息苦しくも重苦しい作品にしてしまうとは、それはそれで一種の才能だったかも知れない。それとも一瞬の才能か。お笑い芸人・児嶋一哉が出ていながらひとかけらの笑いすらとろう…

『アイアムアヒーロー』(2015)

2013年に撮影したと有村架純はブログには書いています。 有村はここで菩薩となってしまったように神々しいのです。 出演シーンの大半でみずから行動せず、ただ寝ているだけか、かつがれているか、おぶさっているか、ショッピングカートで運ばれているだけ。…

『桐島、部活やめるってよ』(2012)

制作者たち、特に脚本者や監督は、原作からタランティーノの匂いを嗅ぎ取ったのに違いない。原作の中の映画の気配が犬童一心が消えて、タランティーノ、ロメロ、『鉄男』に差し替わっている。映画部の神木はゾンビ映画を摂ることにした。そして顧問の先生か…

『007/黄金銃を持つ男』(1974)

自動車に翼つけて飛べるのか。飛べるのだ。こんなSFショーは無論、原作にはない。スカラマンガという悪党とボンドとの対決というプロットだけ原作からいただいて、オリジナルのストーリーに仕上げたろくなもんじゃない。ダニエル・クレイグの『007/カ…

『野火』(1959)

とにかく主人公・田村は生き残る。昭和45年2月のフィリピン島。終戦の半年前だ。飢えた敗残兵の群れが泥の河をわたって向こう岸の草原を匍匐前進する。カメラは目の前の林に向かっていく。まっすぐの木立がキレイに並んで奥が暗闇になっている。その暗闇の間…

『ストレイヤーズ・クロニクル』(2015)

最近、豊原功補の活躍ぶりが目立つ。テレビドラマの『マザー・ゲーム』とか面白くない映画だった『新宿スワン』など脇をしっかり固める類のいい役者だ。 ストレイヤーズクロニクル 本作では元エリート自衛官で、自前で民間警備会社を経営し、悪徳政治家渡瀬…

『華氏451』(1966)

現実の社会を撮影して未来世界を描いた映画といえば、『惑星ソラリス』『アルファヴィル』そしてこれ『華氏451』がベスト3だ。 原作で出てくるファンタジックな魅力いっぱいのたんぽぽ少女クラリスは登場しない。モンターグの隣人は登場して、当局に目を…

凶悪(2013)

上映時間 128分 監督: 白石和彌 原作: 新潮45編集部 『凶悪―ある死刑囚の告白―』(新潮文庫刊)脚本: 高橋泉 白石和彌 撮影: 今井孝博 美術: 今村力 衣裳: 小里幸子 編集: 加藤ひとみ 音楽: 安川午朗 出演: 山田孝之 ピエール瀧 リリー・フランキー…

『PARKER/パーカー』(2013)

ストーリーは原作『地獄の分け前』のプロットをかなり忠実に踏まえている。 クレアに父親(ニック・ノルティ)がいるところは違っているが、おかげでジェイソン・ステイサムがパーカーというよりも『エクスペンダブルズ』のクリスマスに見えてきた。ニック・…