映画とその原作

小説でも詩でもルポでも戯曲でもいいけど原作がある映画とその原作について無駄口をたたく

『少女は卒業しない』 2022

日本  カラー 120分
初公開日: 2023/02/23
監督:中川駿 原作:朝井リョウ

出演:河合優実 小野莉奈 小宮山莉渚 中井友望

 

卒業式の一日前、それから卒業式当日に舞台をしぼったドラマなのだが、河合のパートで、回想がある。一見、回想とは見せない(見えない)編集である。弁当の飾りの国旗の数が5個となり、国連のように増やそうと話しているのが、卒業式の1日前の会話にしてはおかしいなと感じさせ、話が進むと(ほかの女子のパートが挿入され)実は、彼は死んだということが分かるのだ。校舎の上階か屋上かから落ちたのだ。大慌てで河合が階段を降り、校舎を走り抜け辿り着くと地面に横たわるボーイフレンドの駿が他の生徒に囲まれている。かき分けて駆け寄る河合。すでに死んでいるようにも見えるが、それが事故なのか、自殺なのかは知らされない。自殺としても理由は何かなど一切語られず、それは語るに落ちるわけで、だから落ちたわけなのだ。こういう無駄な描写を一切省き、センチメンタルを避けて少女たちの恋模様を語るという離れ業をやってのけた。
ちなみに駿の死の理由は原作を読むと分かる。


駿が剣道部の副部長かどうか、映画では示されない。映画の全体で原作のディテールはかなり省略されて、変更が加えられて、それは原作無視というくらいまで極限に映画的に再構築されている。しかしながら、原作のスピリットは存分に引き継がれている。そこが奇跡なのだ。


まなみ(=河合)は小説だと弁当つくるだけじゃなくてクッキーも焼く。クッキングコンテストに出品するため、何度も試作して味見をしてもらう。駿は受け取って床に落としてしまい、「3秒ルール」で拾って食べる。映画だとこれが弁当のおかずのさやえんどうだ。台本にはなくて即興の芝居だった。


原作に在校生が長い送辞を読む一篇がある。映画ではまなみの方が答辞を読むにおきかわり、送辞のエピソードは省略される。


映画は4人の女子のドラマを並行してテレコで見せるわけで、それぞれのドラマにあまり関連を持たせていないようにも見える。しかし、引っ込み思案な性格の作田(=中井友望)は同級生たちに思い切って話しかける。そのきっかけが「山城さんが答辞を読むから」なのだ。


卒業生・在校生の合同リハーサルは小説にはなく、「在校生起立」の号令でひとりだけ卒業生の後藤(=小野)が立ち上がってしまうドジをするのは映画だけのものだ。後藤の性格をこれだけのカットで集中的に伝達できる名シーンといえる。


まなみが答辞を読むことがなぜ作田の行動の動機になるのか理由はあかされない。それは野暮だからだ。だが、駿の死が関係するのかと推測はできる。映画の画面の流れだけで心理的なものを自然に感じさせる繊細さがにじみ出る演出だ。このようにして観客は映画のドラマとともに生きることができる。