映画とその原作

小説でも詩でもルポでも戯曲でもいいけど原作がある映画とその原作について無駄口をたたく

『アイアムアヒーロー』(2015)

2013年に撮影したと有村架純はブログには書いています。

有村はここで菩薩となってしまったように神々しいのです。

出演シーンの大半でみずから行動せず、ただ寝ているだけか、かつがれているか、おぶさっているか、ショッピングカートで運ばれているだけ。半ZQN(ゾキュン)となった有村はむしろ半神、半菩薩のようにありがたい存在として降臨したのでした。

なにしろ足を折りたたんで横たわる姿も頭を矢で射られて倒れる仕種もとてもキュートです(ズキュートというべき?)。

 

 ご覧の方はすぐにお気づきだろうけど、この映画のドラマの骨子はその相当量をジョージ・A・ロメロ『ゾンビ』に負っているのです。

謎の感染症で動きまわり人間に襲いかかる死体ZQN(ゾキュン)とは何の事はないゾンビの言い換えであるに過ぎません。それを百も承知で楽しむのが、この映画の鑑賞の作法というものでありましょう。

ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』で創造した(モン)スターは、瞬く間にこのホラー映画界を席巻した感があります。なにはともあれゾンビを出せばホラーになるとばかりの盛況ぶりです。どこもかしこも、あっちもこっちも、古今東西でゾンビ祭りの花盛りなのです。

 

さて『アイアムアヒーロー』にはなにも『ゾンビ』ばかりじゃなく、いろんな過去の映画を連想させるシーンが詰め込んであります。

まずはゴダールの『ウィークエンド』です。事故でスクラップとなった車がえんえんところがっている道を進んでいく主人公たち。

高速道路を走行しながらのでバトルは『マトリックス』で見た光景です。

ショッピングセンターに立てこもってZQNと戦う人間たちはまさに『ゾンビ』そのもの。最終決戦でショットガンを撃ちまくり次々とZQNが片付けられ最後に強敵が残って迫ってきます。残る弾は床に転がったまま。ZQNの死体の合間に落ちています。手を伸ばして散弾を拾うシーンは『マッドマックス』などでおなじみでありましょう。

もひとついえば、半ZQNと化した有村の片目は銀色に輝いてまるで人間と悪魔の間の子になったようです。つまり『ローズマリーの赤ちゃん』の目なのです。

 

しかし極めつけは生き残った三人が戦場を車で去っていくシーンです。ここでロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の恐怖をどこから思いついたのかが判ってしまいます。夜のうちに立て籠もった屋敷を屋外で取り囲んだ敵がひっきりなしに攻撃を仕掛けて、それを撃退した後、静寂が訪れる。その中を生き残った主人公が去っていくという下りはヒッチコック『鳥』そのままなのでした。